2024年7月「今月のコラム」
さて今月は、虚実変化の道理です。詳細については、体用相応の巻で述べることにしますが、「虚」とは太極・無極などと同義で本質的なものを示し、「実」とは現実的なものの意味です。この考え方の1つに以下のものがあります。
植物はその生育に従うのが実で、その成長の実を失わないで挿花を挿けるがしかし所詮その挿花は「虚」である。(広江美之助)
未生流においては、伝書の解説のとおり、虚と実が相和してゆくところを求めるものです。
伐り出された草木を実より生じた虚(伐り出す前を実、伐る事で虚となる)とし、花矩を実、花の姿を虚とします。正花の姿に組み立てることを虚から実に帰ると見ます。組み立てて自然の草木は元の実に帰り、花矩は虚に帰るとみます。この虚実の変化に万能の姿を結ぶと考えるところに生花の妙境があります。(体用論より)なお、虚実とは、虚と実の関係の間に成り立っているもので、実は実のみで虚は虚のみであるものではなく、陰と陽、男と女、表と裏等と同義で、一枚の紙の表と裏とは表に対して裏があるのであり、表のみでは成り立たないものであります。
「五行」
中国で万物を生じ万象を変化させる五気(起こりは四千年前、中国夏王朝兎王の時代にさかのぼり…以下略)として、木土金火水をいいます。木火土金水は元来日常生活に不可欠な五つの物質ですが、転じてこれらの物質によって象徴される「気」あるいはその働きの意となり所謂五行説として展開します。五行の行とは運行の意で五つの物質が五行となるのは、天上の五遊星にその名を当てたことに由来します。(日本国語大辞典より)『五行大義』(続日本書紀に名が出る)陰陽の必読書として「周易」にならんで挙げられています。
五行大義では、
九は休む事無く前進し伸び進む君徳明徴の数 極陽の数
八は後方に退き、陽に和し、徳命の臣道象徴の数 極陰の数
となっています。五行が最初に登場するのは書経(中国最古の経典)であり、五行の順が「水火木金土」でした。その後、鄒衍(すうえん)によって相剋説の「木土水火金」と替えられ、紀元前一世紀頃現在使われている相生説の順である「木火土金水」に替えられました。その後、漢代(紀元前200年頃)には陰陽説と合わせて宇宙の万物は全て五行の相生・相剋の原理によって生成変化するとして、種々のものに当てはめるようになりました。
相剋(そうこく)では、水は火に剋ち、火は金に剋ち、金は木に剋ち、木は土に剋ち、土は水に剋つとする。
相生(そうしょう)では、木は火を生じ、火は土を生じ、土は金を生じ、金は水を生じ、水は木を生じるとする。
挿花百練(23頁)に五行五色のこととして、次の記載があります。
五色は木火土金水五行の色をいう、凡そ草木季節寒暖の時に随い、花葉を生じ青黄赤白と花に色はあらわせども、黒色の花なし、傳を持って五色を入る事あり、五色は即ち四方中央の五位なり、先ず東の方は木にして青色、南の方は火にして赤色、西の方は金にして白色、北の方は水にして黒色を現す、中央は土にして黄色をあらわすなり即ち五色これなり。
この四方中央の五位に五行をあて、その意に花形の役枝をあてたものが五行格で、中央に体、東に物の初めで動くとして留、南に栄えるとして用、西に実のりとして添うて添わず(相生)、北に朽ち土中に芽生えるといえど未だ生ぜずとして控と名づけます。この控の位置こそが未生の意を表し、未生流を考える上での大切な位置となります。
言葉の持つ意味を知る事とは、より深くいけばなを知ることでただ形だけにこだわらず、形にこめられた何ものかを追求し、いけばなの意義を感じ求めて頂く事ではないかと思う次第です。
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