2017年5月の花 <紫蘭(しらん)>
ようやく出揃った楓の葉と風との戯れで木漏れ日が楽しそうにうごめいています。初夏の陽射しが眩しく、木々の緑も色鮮やかに空の青さとの境界線を描いています。
それぞれの木が大きく背伸びをしている時期に、里では様々な草花がところせましと咲き始めます。私の住む長岡京でも、天神さんの参道を覆うような霧島躑躅の真っ赤な花、乙訓寺の赤色や、黄色朱色桃色と何百株もあるのであろう牡丹が咲いており、此処かしこで石楠花や紫陽花も時遅しと咲くのを待っています。これらの花の下に立ち昇るようなひわ色の葉の間から紅紫の花の蕾の細い花茎が健気に伸びてくる紫蘭(しらん)を今月はご紹介します。
紫蘭は、被子植物、単子葉類、キジカクシ目、ラン科、シラン属に分類される宿根草で、学名をBletilla striata Reichb.fil、英名がurn orchid、別名には白及、いもらん、けいらん、しけい、してらん、しゅうらん、しゅらんらん、びゃくぎょう、べにらん、らん、竹栗膠、朱蘭、研蘭、紫蘭、雲如来等があります。
「紫蘭咲いて いささか岩もあわれなり」と白秋が詠んでいますように、日本では多くのラン科が栽培されていますが、その中でも紫蘭ほど丈夫で育てやすいものはありません。日向でも日陰でも一度植えてしまえば、あとは放っておいてもよく育ちます。
4月頃、偽鱗茎の側芽が成長し始め、5月には高さ40~50 cmの花茎を伸ばします。また、直径4cm程度の白から紫紅色の花が5~6個総状につけます。
縦筋のある葉が伸びやかに曲線を描き、その中心から花茎を葉より高く出し紫紅色の花が咲きます。果実期になると、この葉は長く縦筋はっきりして曲線を描き、さらに秋には果実は黒っぽい実となり、どことなく哀愁を感じます。冬には葉は消えて越冬します。
<いけばなとシラン>
未生流の伝書「体用相応の巻」の軸付き葉物十二種挿け方の心得の中で荻、芒、檜扇などがある中に説明があります。
“紫蘭の出生は葉二方へ出て、その中より花を生ず。故に花瓶に移す時もこの出生に随い、虚実を備え葉を組み直して取り扱う。尤も、三本より九本まで挿けるなり(以下略)。”
葉は筒葉で、貫くことも戻すことも難しいものですが、太い筒葉に細い筒葉のものから選だり、葉を細く削いで元の筒に入れたりします。花の軸も同様に、他の株から花の形の良いものを選びますが細いものしか中に入りません。
まず、葉で格を取りますので葉選びが大切です。
二花の場合は陽の株で体用の葉を付けたものを選び、三花以上の場合は格先の葉は都合よくありますが、向かい合う葉が挿けるのに邪魔になる事があります。向かい合った葉で一株となりますのでむやみにとる事は出来ません。
数が多くなるほど難しくなるものですが、小さな器にあまり数多く入れず品良く挿けたいものです。