毎年2月の中旬になると花桃がいけばな用として市場に出回わります。桃といえば、3月3日は五節句の1つである「上巳(じょうみ)」(元は3月最初の巳の日)、桃の節句とも呼ばれるものを思い起こします。今月はこの桃の花をご紹介します。
まず、桃の節句の名の由来ですが、中国の陰陽思想が影響すると考えられます。桃の花は陽で、陰を祓うとされています。また、中国では鬼は桃を嫌うとされ、日本でもイザナミノミコトが桃を投げつけて鬼女を退散させたことから女児を邪悪から守る願いで飾るようになりました。 節句は、旧暦では約1ヶ月後になりますので、桃の花は景色の中に溶け込んでいるというより咲き終わってしまっていますが、花が咲いた後からひわ色の美しい葉が芽を出してきます。
桃は、被子植物、真正双子葉類、バラ目、バラ科、モモ属、モモ種に分類される落葉小高木で、学名はAmygdalus persica (別名Prunus persica Batsch)です。また、和名はモモ、英名はご存知のとおりPeachです。 名前の語源は真実(まみ)、燃実(もえみ)、百(もも)など諸説ありますが、古く、丸くて堅いものの事を「もも」と言っていたことに由来するともいわれています。
3月頃から葉に先立ち、5弁又は多重弁の花を咲かせます。色は白から桃色、濃い桃色、濃い紅色まであり、源平咲といって、1本の花で白花と赤花を咲かせる種もあります。桃の木の種類では、観賞用の花桃と実を取る為の桃とに分けられ、特に実を取る為の種類は改良を重ね甘く水気の多い種が市場に出回っています。白桃といわれるものや、缶詰等でよく見る黄色い果肉のものもあります。桃の原産は中国ですが、甘い水蜜桃の種は日本での改良種が外国にも出回っているようです。
梅や桜の花見はよく聞きますが、桃の花見はあまり耳にしません。桃と桜と咲き誇っているところを観賞して良い花ではないかと思いますが、逆に梅の花は満開になると情緒に掛けるような気がします。 幾本かの桃の木や、枝垂れ桃が咲き誇る姿を見ると心も陽気になるものです。随分と前に三重県に行った折に案内されたような記憶があります。あまり聞かない桃園でしたが、これがやはり密かに思う桃源郷でしょうか。
<いけばなと桃の花> 桃は、枝の分かれ目から少し湾曲し、素直に伸びていく枝に咲き連なるように花をつけます。花の終わるころの美しいひわ色の新芽が目に鮮やかです。 先述のとおり、実桃と花桃とがあり、いけばなでは主に花桃を使います。花桃には、白、桃色、紅、緋色、咲き分けと色々あり、また花弁も一重三重八重咲と色々ありますが、いけばなによく使うのは白、桃色のものです。特に上巳(桃の節句)には一重の桃色のものを使います。
「三月節句の花は桃の葉を愛して入るべし。」「八重の桃は禁ず。八重には毒ある者なり。一重は薬なり」(未生流挿花表之巻口伝書より)。
「上巳には桃一色を挿ける。この様子は桃の若芽を愛し、体添えか内用の枝に花五七輪置く。尤も花は一重を用う、八重は無用。」(未生流伝書三才の巻より)。
水あげは必要ありません。桃の木の繊維は素直で、切揉めをするときには裂けないように注意します。木肌は滑るような感じですので、挿ける場合、特に足元を揃えるための逆揉めはし過ぎないようにします。まずは丁寧に掃除が必要です。
先端部が焦げたように黒くなって留り、その下あたりから枝を伸ばしています。その黒く焦げたようなところを出生ととらえ、体の前添え辺りに配すと風情が出ます。用の枝を選ぶのが難しく、横枝を使う方が多いようですが、長さや流れに注意が必要です、基本的な花姿を思い浮かべながら選ぶようにしましょう。 赤芽柳(あかめやなぎ)や山茱萸(さんしゅゆ)同様添い難く、まっすぐに揉め、1本ずつ丁寧に添わせます。付き枝を活かす木物は「木挿け」が雰囲気を高めます。年に一度といわず楽しんで下さい。