9月聞くと、まだまだ残暑が厳しい暑さが続いていても、やはり秋を感じますね。9月には、長月(ながつき)や菊月(きくづき)、玄月(げんげつ)、紅葉月(もみじづき)、など様々な別名がありますが、まさに秋を表現する言葉が使われており、暦のうえでは秋真っただ中の時期となります。この9月の一番の国民的イベントといえば、お彼岸(おひがん)ではないでしょうか。丁度その頃に咲くのが彼岸花(ひがんばな)で、今月はこの彼岸花を紹介したいと思います。 彼岸花は、クサスギカズラ目ヒガンバナ科ヒガンバナ属に属する多年草で、学名をLycoris radiate、英名をred spider lily(赤いクモのような百合!)といいます。別名に天界に咲く花という意味の曼珠沙華(まんじゅしゃげ、まんじゅしゃか)、万葉集には壱師の花として登場します。異名には死人花、地獄花、幽霊花、毒花、痺れ花、天蓋花、狐の松明、剃刀花、狐花、葉見ず花見ず、不義草など、沢山あります。あまり嬉しい名前がついていないですが、これは花の形と毒を持っている特長に由来するのかもしれません。 彼岸花は中国から一株が渡来し、日本全体に株分けで広まり(三倍体であるため種で増えることができません)、その渡来時期は縄文時代とも弥生時代ともいわれています。また、日本に存在する彼岸花はすべて遺伝的に同一であることから、中国から伝わった1株の球根から日本各地に広まったと考えられています。なお、彼岸花は全草有毒で、特に鱗茎にアルカロイド(リコリン、ガランタミン、セキサニン、ホモリコリンなど)を含む有毒植物です。前述の異名にも関連していますが、日本では田んぼの畦道や墓地に多くみられ、これは田んぼの場合は、田んぼを荒らすネズミやモグラ、虫などがこの鱗茎の毒を嫌って避ける(これを忌避(きひ)といいます)ように、墓地の場合は虫よけや土葬後に動物が墓地を掘り起こしたりして荒らすのを防ぐ目的に植えられたと考えています。このアルカロイドは利尿などの薬効もあるとされていますが、危険ですので決して試さないでください。また、アルカロイドの1つのガランタミンはアルツハイマー病の治療薬として利用されています。 彼岸花の葉を知らない人が多いかと思います。これは、生態の不思議で、開花がおわると、細い線上の葉が30cm以上もロゼット状にのび、この葉は秋から春まで濃い緑ですが、夏場は枯れてなにもありません。葉が冬を超えて春まで球根に栄養をもたらし枯れ、秋に開花します。 ヒガンバナ属には、キツネノカミソリ(橙赤色で花弁は反らない)、ショウキズイセン、シロバナマンジュシャゲ、ナツズイセン、リコリス アウレア(黄金色)、リコリス ロンギトゥバ(芳香性あり)などの近種があります。また、花言葉には情熱、独立、再開、あきらめ、悲しい思い出、想うはあなた一人などがあります。 あぜ道や土手を真っ赤に染める景色は不思議な感じさえします。そこに緑の葉が無いからかも知れません。子供の頃、炎のような花だから家に持って帰ると火事になると忌まれていました。 <いけばなと彼岸花> 彼岸花を伝承の花に使うことはありません。現代的な作品には花弁の特徴から、短い季節では有りますが楽しい花材の1つです。 彼岸花ほど美しくはありませんがネリネ、リコリス、ハマオモト(ハマユウ)等も同じような花の咲き方です。切花に適しているネリネやリコリスの方が手にすることは多いようです。 彼岸花は赤、白、クリームといった色の園芸種があります。中でも花茎の先端に7個以上の花がそれぞれ6枚の赤い色の花弁を反りかえらせる姿は美しく、曲を描いて長く伸びるシベや花弁に動きもあります。花の形は半球体のマッス状で、軽やかに透けて見える花はそれ自体が個性を物語ってくれます。 器と共に愉しく表現したいものです。他には無い個性を持っている花ほど、その花の美を表現する事はたやすいものです。空洞の花茎もアマリリスなどと同じように、少し切り目を入れて水に浸けると反り返ってきます。
photo by Dalgial